脳卒中について ー発症からはじまるリハビリの流れー

 

脳卒中は頭の中の血管に起こる病気で、その影響により身体に様々な障害が現れます。脳の血管が詰まる「脳梗塞」、脳の血管が破れる「脳出血」、脳動脈瘤が破裂する「くも膜下出血」 の3つを総称して「脳卒中」と呼びます。

この状態になると、言葉の不自由さ、身体の一部の麻痺、視界の障害など、さまざまな症状が現れます。脳卒中が発症したらすぐに適切な治療を受けることが重要で、リハビリでは症状を改善しさらなる脳の損傷を防ぐことが目標となります。

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発症から始まるリハビリの流れ

 脳卒中を経験された方やそのご家族が抱える不安や疑問を少しでも和らげるために、発病からのリハビリの流れについて説明します。脳卒中後のリハビリは、単に身体を動かす練習だけではなく、身体と心の両面からのアプローチが重要です。この記事を通して、一歩一歩、どのように前進していけるのか、見通しと希望を持っていただければと思います。

<発症初期:理解と受け入れ>

 脳卒中は、筋肉ではなく脳に生じる病気です。脳の神経線維の損傷により、運動をコントロールする能力、感覚やバランスを保持する能力に影響を及ぼします。初期では、脳から筋肉に至るまでの指令が滞り、筋肉は弛緩してしまいます。

 このような状態は意識して力を入れることが難しくなりますが、リハビリで麻痺している脚に体重を乗せたり、肩や手を動かす等で様々な感覚情報を脳の神経に届けていくと、徐々に筋肉の張りを取り戻し始めます。

 力が出ないからといって「過度に頑張って力を入れる」といった練習を繰り返しすぎると、かえって身体のこわばりを強めてしまい、手足の可動性を狭めることに他なりません。

 重要なのは、支えている、動いている実感を手に入れることで、そのためには適切な感覚情報を提供されることが不可欠です。

<総合的なアプローチの重要性>

 発症後数か月後のリハビリの成功には、筋力強化だけでなく、感覚やバランスの練習も同様に重要です。感覚と運動の調和を図りながら、動きを改善する経験を積むことが鍵となります。この段階では、理学・作業療法士の指導の下、様々な種類の運動やトレーニングを経験します。

<機能回復と機能代償>

 脳卒中のリハビリでは、失われた機能の回復だけでなく、杖や補助具を使用した機能代償の取り組みも時には必要です。杖や補助具は、歩行時の安定性を提供するなど、回復をサポートします。しかし、これらの道具に頼りすぎると、身体が本来持つ回復力の発揮を妨げることもありますので、バランスを見極めながら実施していく必要があります。

 

効果的にリハビリを進める鍵 -食事、睡眠、生活リズム-

 

脳卒中のリハビリを進める上で、リハビリの効果を高めるためには運動やトレーニングだけでなく、日常生活の基本である「食事」「睡眠」「生活のリズム」が非常に重要です。これらの要素がリハビリの成果を大きく左右します。

<食事:エネルギーの源と栄養管理>

 リハビリ中の食事は、単に空腹を満たすだけでなく、適切なエネルギー補給と栄養バランスが重要です。身心の快復とリハビリのためのエネルギー源として、高品質なたんぱく質、ビタミン、ミネラルが豊富な食事を心掛ける必要があります。また、水分補給も忘れずに行うことで、体内のバランスを保ち、リハビリの効果を高めます。
 再発予防のためには低脂質で塩分の少ない食事が推奨されるため、食事内容について今一度、目を向けてみるのも良いかもしれません。

<睡眠:回復と学習の時間>

 睡眠は、身体だけでなく脳の回復にも欠かせない要素です。良質な睡眠は、リハビリ中に学んだ新しい運動やスキルの「脳内定着」を助けます。夜間の深い睡眠中には、脳がその日の経験を整理し、記憶として定着させるため、睡眠不足はリハビリの進捗に悪影響を与えます。

 手や指、言語を含める高度の思考力は脳内の広い領域によって支配され、それらのリハビリでは強い集中が求められます。多くの領域に強い活動が求められるため、脳の神経疲労を起こしやすくなります。脳の神経疲労の緩和のためには、良質な睡眠はとても重要になります。

<生活リズム:規則正しい生活の重要性>

 リハビリにおいては、規則正しい生活リズムを保つことも大切です。日中は活動的に過ごし、夜はしっかり休むことで、身体のリズムを整え、リハビリの効果を最大化できます。また、規則正しい生活は心の安定にも寄与し、モチベーションの維持にもつながります。

<半年を過ぎても諦めない>

 日本では、発病から半年でリハビリの効果が見込めないとされがちですが、これは医療制度の問題であり、実際にはその後も回復が見られるケースは多く存在します。実際に海外の論文でも多数改善の報告が上がっており、当施設の自費リハビリにおいても同様に改善がみられています。

 国や地域によって異なる医療制度の中で、重要なのは「個々の回復速度に合わせたリハビリの継続」です。目標を設定し、現状を正確に把握しながら、一歩ずつ前に進んでいくことが大切です。

 

機能的改善について

基本的な能力の習得>

 機能的回復の第一歩は、筋肉の収縮能力の改善と感覚の獲得です。筋肉が適切に動くためには、適正な神経筋トレーニングが必要ですが、これだけでは十分ではありません。脳卒中によって失われた感覚を取り戻すトレーニングも同様に重要です。感覚の改善には、触覚や痛覚、温度感覚を刺激することで、脳が再びこれらの情報を処理できるようになることが目指されます。

<動作のスムーズさとリズムの獲得>

 歩行の改善や日常生活での動作のスムーズさを実現するためには、動きのリズムと流れを練習することが重要です。リハビリでは、ただ筋力を強化するだけでなく、運動の組み合わせや連続性の練習を行い、自然で効率的な動きを身につける必要があります。これにより、日常生活での動作がよりスムーズに、かつ安全に行えるようになります。

<上肢機能の改善>

上肢や手の機能回復は、多くの脳卒中当事者にとって重要な課題です。上肢の役割は多岐にわたり、以下の3つが主な機能です

  • 物を操作する能力:物を掴んだり、動かしたりする動作です。日常生活での自立性を高めるためには、この能力の獲得が強く推奨されます。
  • 物の認識能力:触ったものを感じ、何であるかを認識すること。これには触覚だけでなく、運動によって手に入れられる感覚(知覚)も関わっています。
  • バランスと支持:手や腕を使って体を支えたり、バランスを取ったりすることも上肢の重要な役割です。

<長期的な視点と個別のアプローチ>

 脳卒中後の機能回復は、個々の状態や進行度に応じて異なります。一般的には、歩行能力の改善が比較的早く見られることが多いですが、上肢の機能改善は時間がかかることが多く、個別の詳細な評価とそれに基づいた専門的なリハビリプランが必要です。このプロセスには、当事者自身の積極的な参加と、リハビリチームの綿密な協力が求められます。

まとめ

脳卒中のリハビリは単に身体機能を回復させるだけでなく、個々の生活の質を向上させるための重要なプロセスです。このプロセスは、筋力だけではなく、感覚やバランスを総合的に改善することを目指しています。

機能回復と機能代償のバランスを適切に管理しながら、各個人のニーズに合わせたリハビリテーション計画を進めることが、社会へのスムーズな復帰を助ける鍵となります。それぞれの小さな成功を積み重ねることで、日常生活への自信と能力を取り戻すことが可能です。

この道のりは一人ひとり異なりますが、正しいサポートと献身的な取り組みにより、希望ある未来への第一歩になるよう願っています。