脊髄損傷は治る?その症状と予防について

「脊髄損傷」とは?

脳から背骨へと連続する、脊髄と呼ばれる神経を損傷してしまうことを「脊髄損傷」呼びます。脊髄は、脳からの命令を身体の各部位に伝達したり、全身から絶えず入力されている感覚情報を脳へ送り返す役割を担っています。

例えば、「椅子から立ち上がり、ドアまで歩く」という動作をする際、脊髄はその指令を脳から受け取り、腕や脚の筋肉に伝えて動作を実行させます。
また、歩いているときの地面の感触やドアノブの冷たさなど、様々な感覚が脊髄を通じて脳に伝えられます。

脊髄が何らかの原因で損傷を受けると、これらの神経信号の伝達が阻害され、体の一部に麻痺を引き起こしたり、感覚が鈍くなる可能性があります。

当施設の脊髄損傷へのアプローチについてはこちらからご確認ください。


脊髄損傷の症状

脊髄損傷は発症部位によって、重症度が大きく変わります。

脊髄は脊柱管と呼ばれる背骨の中の空洞を通っており、頚髄(C1~8)、胸髄(Th1~12)、腰髄(L1~12)、仙髄(S1~5)と呼ばれる部位に分かれます。損傷が起こる位置によって、影響を受ける身体の範囲が異なります。

例えば、頚髄の高い位置(C1~C3)で損傷が発生した場合、四肢の全面的な麻痺の他、横隔膜の麻痺による呼吸の困難さが生じるため、人工呼吸器が必要になることがあります。

これに対し、C4の脊髄の損傷では手足の麻痺は避けられませんが、横隔膜の機能が保たれるため、自力での呼吸は可能となります。

胸髄や腰髄の損傷では、主に体幹(腹筋や背筋など)や下半身の運動機能や感覚に障害が現れ、車椅子生活を余儀なくされることもあります。

損傷部位が低いほど、身体の上部の機能は残存しやすく、自立した生活の可能性が高まります。

脊髄損傷の発症部位と重症度の理解は、適切なリハビリの計画立案に不可欠であり、対象者の生活の質を最大限に高めるために重要な役割を果たします。


完全麻痺と不全麻痺

「完全麻痺」と「不全麻痺」、これらの用語は脊髄損傷の診断において非常に重要ですが、一般にはあまり知られていません。完全麻痺とは、脊髄のある部位が完全に損傷してしまい、損傷部位から下の身体感覚や運動機能を持たない状態を指します。

不全麻痺は、完全に脊髄が損傷しておらず、ある程度の感覚や運動機能が残っている状態を示しています。

不全麻痺の予後を示すサインとして肛門周囲の感覚や運動機能が重要視されます。肛門周囲は不全麻痺であっても早い段階で改善が見られやすく、神経系の予後を見定める上で非常に重要です。


脊髄損傷の原因

脊髄損傷のほとんどは、外からの強い衝撃により発生します。

事故などの外傷による発症が多く報告されており、高い位置での作業中に不慮の落下が発生したり、交通事故によって発症することもあります。また、アルコールの影響で判断力が鈍っている際に転倒し、硬い地面に激しくぶつかることで脊髄が傷つくこともあります。

高齢化社会では、骨が脆くなる(骨粗しょう症)の高齢者の脊髄損傷が増えており、自宅での転倒が原因で背骨や頸部の骨に外力がかかると、脊髄損傷を起こすことがあります。

特に頸部の脊椎は、非骨傷性頸髄損傷と呼ばれるタイプの損傷が増えています。

 


脊髄損傷の予防方法

脊髄損傷の主な原因は「外傷」となりますので、ケガをするような行動を慎むことが大切になります。

たとえば、高所で作業をするときには安全確認を怠らないこと、外出するときは交通安全を徹底することなどが挙げられます。

高齢者の「非骨傷性頚髄損傷」に関しては、定期的に検診を受けることで頸椎の形状の経過を観察したり、必要な処置を施すことが予防方法のひとつです。

その他にも、頚椎症と呼ばれる頸椎の変形や椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症と呼ばれる脊椎の変性が重症化すると、脊髄を傷つけてしまう恐れがあります。

これらは患部だけではなく、患部に負担を与えるような姿勢と運動を繰り返していくと生じる場合があります。

当施設では、このような姿勢と運動の課題に対するリハビリを実施しており、早期からの予防にも力を入れています。


まとめ

この記事では、脊髄損傷の治癒の可能性について詳しく解説しました。

脊髄損傷は、脳と四肢を繋ぐ脊髄が損傷を受けることにより起こります。

この損傷が生じると、脳と四肢の間の神経伝達に障害が生じ、麻痺や感覚障害が発生することがあります。

麻痺の種類には、発生部位と損傷の程度に応じて完全麻痺と不全麻痺があり、主な原因としては事故や加齢、転倒が挙げられます。

これらを予防するためには日々の外傷に対する安全意識を高めること、定期的な受診が効果的です。